高齢者に寄り添う弁護士を目指して

野口 沙里 (弁護士)

  弁護士としてご高齢の方々の代理人をつとめることがあります。
 長年婚姻生活を続けてきたご夫婦の離婚,いわゆる熟年離婚では,長期にわたり作り上げてきた財産があるため,ときには財産の分与方法に関してたいへんな争いが生じます。不動産や預貯金だけでなく,家具や思い出の品までもが争いの対象となるわけです。夫婦関係だけでなく,養子縁組関係においても,長年蓄積された感情の中で,養子関係の解消に踏み切ることもあります。
 ご高齢の方々には,長い人生の中で形成されてきた人間関係もありますし,長年培われてきた強い感情や価値観があることが多いため,事件処理においても,その方々の「思い」を汲み取っていくことが非常に重要です。ときには,なぜその感情が生じるに至ったかの原因を,過去を振り返りながら共に探り,解決策を考えていく必要があります。
 そんな中で良く耳にするのは,「子どもに面倒事を残したくないから。」という言葉です。生活に困窮して借り入れを行ったところ,高齢になり完済することが出来ず,やむを得ず自己破産を選択することとなった方について,代理人となり破産申立を行ったことがあります。足腰に痛みがある方でしたので,身体に出来るだけご負担を掛けないよう,その方の来やすい場所で打ち合わせを行い,なおかつ最小限の打ち合わせで済むような工夫をしました。裁判所において身体に痛みを抱えながら手続きを受けている姿から,自身の子らに迷惑を掛けないために生前に身辺整理をしておきたいとの強い思いが感じ取れました。
 一方で,相続人の間で紛争となり,遺産分割調停等に発達する場合もありますので,一切の憂慮を残さずに一生を終えるというのは難しいことなのかもしれません。しかしながら,弁護士として上記のような様々な事件を経験したことから,ご高齢の方々がこれまでの人生の中で形作って来た人間関係や感情をこのまま眠らせてしまうのではなく,その方々の「意思」を汲み取り,解決策を共に考え,少しでも将来に遺恨を残さなくて済むようお手伝いがしたいと思うようになりました。遺言書の作成はその最たる例で,遺言者の価値観や感情を形に残すことが出来る有効な手段だと思います。
 これからも,依頼者の方々の思いを汲み取りながら,少しでもお役に立てるよう,日々研鑽していきます。