酒飲みの心得
高柳 馨 (弁護士)
私は飲酒をしますが、免許がなく運転しません。 免許がなかったので25年もの間つつがなく(?)弁護士を続けていられるのかもしれません。 従って、心おきなく飲んでいますが、一緒に酒を飲んだだけでも責任をとらされる場合があります。
まず、道路交通法は、酒気を帯びて車両を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、または飲酒をすすめてはならないとされており(65条3項)、酒類を提供した者には3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます(117条の2の2)。 刑事罰こそありませんが、相手をよく見ないで「まあ、一杯」などと酒をすすめるのはまずい場合があるということになります。
最近、酒を一緒に飲んだ相手が自動車を運転して事故を起こした事案について、酒を一緒に飲んだだけの人に、飲酒運転を幇助したという理由で損害賠償が認められたという判例に接しました(東京地裁平成18年7月28日判決、判例時報2026号46頁)。 一緒に酒を飲んだ相手が運転する車に同乗した事案ならば幇助犯として責任を問われるのは当然ですが、この事案は、同乗していないどころか、相手に知人を介して「代行を呼んだ方が良いぞ」と言ったという事案であり、酒飲みにとっては非常に厳しい判断です。
そこで、私も含め酒が好きな人のために、どこまでいったら損害賠償責任を問われるおそれがあるのかを考えてみますと、まず、相手が自動車で来たことを疑わせる事情がある場合には、「まさか自動車で来たんじゃないでしょうね」などと確認する必要があるかもしれません。 そして、自動車で来たことが分かっている人と酒を飲む場合、まず酒をすすめてはいけません。 相手が勝手に飲むのは仕方がないとして、飲んだ後、そのまま別れてはいけないことになります。 「私は電車があるうちに帰りますから、お先に」などと言って帰ってしまってはまずいわけです。 その場合、「絶対に自動車では帰らないでください」「代行を頼んでください」と言っただけでもまずく(言った言わないの問題があります)、誓約書でも書かせるか、あるいは代行車輌を自分で頼むということでもしておかなければ危ないということになります。 飲んだ状態でそんなことができるでしょうか。おちおち酒も飲んでいられないということになります。
最近は愛煙家にとり厳しい社会になってきておりますが、酒飲みにとっても肩身の狭い社会になってきたようです。