親子の面会交流について
米積 直樹 (弁護士)
お子さんのいるご夫婦の離婚事件において、必ずと言っていいほど問題となるのが、お子さんと非監護親、あるいは親権を持たない親との面会交流です。しかしながら、親子の面会交流の調整は、親子の関係性,親同士の関係性等様々な要素が絡み合いもっとも調整が難しい事件の一つであると感じています。
司法統計によると,面会交流に関する審判事件は,平成10年には全国では293件であったのが、平成15年には683件、平成21年には1,048件と増加の一途をたどり、また、面会交流に関する調停事件も、平成10年の1,696件から増加し続け、平成21年には6,924件にも上っています。この数字は、親子の面会交流に対する意識の高まり、及びその解決方法としての裁判手続への期待の高まりの現れと言えるでしょう。
親子の面会交流の実施が、お子さんの成長に与える影響の大きさは多くの文献で語られており、面会の実施がお子さんの自己肯定性、及び親和性に大きく影響を与えることが報告されています。
裁判所もこのような面会交流実施の効果について認識しているからか、面会交流事件において,基本的には面会を実現させる方向での解決を志向しています(もっとも,裁判所のこの姿勢は、ともすると事案毎の事情に配慮することなく、とにかく会わせることが善であるかのように、硬直化しているようにも思えます)。
面会交流については、お子さんの成長にとって何が最善かという視点から調整する必要があることについては、異論はないところ(平成24年4月1日に施行された改正民法766条1項において「子の利益をもっとも優先して」との文言が付加されたことはこの現れであると思います)です。しかし、別居、あるいは離婚した両親の間では、それまでに生じた両者の認識の齟齬、及び感情的な対立は大きく、両者が描く最善の面会のあり方には大きな乖離があるのがほとんどです。その乖離を埋める手助けをすることが、まさに面会交流における代理人の職務であると思っています。
その際、監護親の依頼者には、一部の例外的な場合を除き、面会を実施することがお子さんの成長にとって有意義であることを、非監護親の依頼者には、面会の実現にあたっては監護親の協力が不可欠であることを理解してもらうことを第一に心懸けています。
これまでの経過から、両親の間に感情的な対立があることはむしろ当然ともいえ、そんな相手方のことを心から慮ることなどほぼ不可能ですが、面会の実現のため、ひいては、お子さんのためという視点から、その限りでの信頼関係を再構築することは必ずしも不可能ではないと思います。代理人としては、その大きな目的に向かって、依頼者に寄り添いつつ、お子さんの成長にとって必要な非監護親との関わり方を一緒に考えることが必要だと考えています。
お子さんにとっての最善の面会を模索するうえで「Q&A親の離婚と子どもの気持ち」(明石書店)という本は、その手がかりを与えてくれています。この本はWinkという家族問題の支援を行っているNPO法人が、親の離婚を経験した若者達の思いをQ&A方式でまとめたものです。同書で は,親の決断に振り回されて傷つきながらも、それでも親(の決断)を肯定しようとし、ひいては自分自身を肯定したいという子ども達の思いが切々とつづられています。そして、親子の面会については、面会は子どもの権利であり、自分の親と会うことについて、あくまでも子どもの思いを最優先にして欲しいと訴えています。
これまでの裁判制度では、面会についての子ども達の思いは、調査官調査を通じて間接的に考慮されるにとどまり、直接意見を表明することはできませんでした。しかしながら,この本で語られている子ども達の思いに触れると、(完全に未成熟な幼児は別として、)子ども達が幼いながらも、両親の離婚という出来事により、自らに訪れる変化に対して真摯に向き合っていることがよく分かり、子ども達の判断が未成熟なものであるとの前提に立つことに疑問を感じます。その意味でも、平成23年5月に家事事件手続法が制定され、子どもの手続代理人制度が導入されることで、弁護士が子ども達の代理人として、子ども達の思いを表明することが可能となったことは、あるべき面会の実現に向けて大きな一歩であると思います。
親子の面会交流についての調停、審判の件数が著しく増加し、今後もこの潮流は続くことが予想されますが、そんな中、家事事件は、その基本法たる家事事件手続法の制定・施行という大きな変化を迎えています。そのような変化に対応しつつも、お子さんにとって最善の面会という目的実現の一助となれるような代理人としての活動を志向していきたいです。私事ですが、昨年12月に第一子が誕生したこともあり、子ども達が幸せに暮らせる社会への思いは日々強まり続けています。