裁判員裁判体験記
菊池 博愛 (弁護士)
昨年10月5日から8日まで裁判員裁判の弁護人を務めました。同じ川崎支部のA弁護士が主任弁護人,私が補佐的な立場で弁護人をしました。
事件の詳しい内容について触れることはできませんが,私たちにとって初めての裁判員裁判でしたのですべてが手探りの状態でした。いろいろと考えた結果,次のような工夫をすることになりました。①法廷では「被告人」という言葉は使わず,「○○君」と呼ぶこと(被告人が20代前半の男性であったため),②難しい法廷用語は使わないようにすること,③冒頭陳述や最終弁論は今までのように原稿を読み上げるのではなく原稿を使わずに行うこと,などでした。
①の点については,裁判官や検察官が「被告人」という言葉を用いていたのに対して,私たちが「○○君」と呼んでいたのが功を奏したのかどうかまでは不明ですが,裁判員も「被告人」という言葉は使わず,「○○さん」と呼んでいましたのでそれなりに良かったのではないかと思っています。
②の点については,長年の癖が抜けきれず,ついつい「しかるべく」とか「示談」などといった言葉を使ってしまったように思いますので今後はこの反省を生かしていきたいと思っています。法廷用語を普通の言葉に言い換える作業はその場で考えてもなかなかうまくいきません。事前にある程度準備しておくことが必要だと思いました。
③の点については,原稿を読まずに話をする練習を何回も繰り返しました。事務所の事務員に聞いてもらったり,司法修習生に聞いてもらったりしてたくさんの意見を頂き,何回も修正して本番に臨みました。原稿なしの冒頭陳述や最終弁論については「そんなのは意味がない。」とか「アメリカかぶれしている。」といった意見もあるようですが,実際やってみると裁判員の表情がよく分かり,話を理解してもらえているのかどうかがわかりますし,身振り手振りも入れられますので良かったのではないかと思っています。
裁判員裁判はまだ始まったばかりで神奈川県内でも実際に法廷が開かれた件数はまだ10件にも届きません。これからこの制度がどのように発展し定着していくのかは予想ができませんが,ごく初期の段階で関与することができたのは貴重な経験でした。