裁判員裁判を経験して
中村 大祐 (弁護士)
私は、平成21年11月から司法修習生として横浜地方裁判所で実務修習を受けました。修習は刑事裁判修習から開始されたのですが、修習開始直後の平成21年12月、配属されていた刑事部で裁判員裁判が行われ、裁判員裁判の手続きを裁判所内部から勉強させて頂く機会を得ました。裁判員裁判は、平成21年から実施されるようになった一定の重大犯罪を対象にした市民参加型の刑事裁判ですが(初めての裁判員裁判が行われたのは同年8月ということです。)、私が刑事裁判修習を行っていたのは正に裁判員裁判が始まった直後のことでした。
修習生であった私は、公判審理を傍聴した他、裁判官と裁判員との評議に同席することができました。評議においては、裁判員の方々が、積極的に自らの意見を述べて活発に議論をしていた印象があります。そして、裁判員裁判においては、直接主義・口頭主義を重視する観点から、いきおい証人や被告人を長時間尋問することになりますが、裁判員の方々は、検察官や弁護人の尋問技術の巧拙を直感的に感じ取られているようでした。評議室で、「あの尋問は酷かったですね」というような会話がなされていたことに衝撃を受けた記憶があります。また、検察官や弁護人のあまりに丁寧な説明の仕方に対して「我々を馬鹿にしているようにも感じられるよね」というような感想を漏らしていました。一般的には「裁判員は法律のことなど何も知らない」と考えがちであり、そのこと自体はその通りなのかもしれません。もっとも、私は、裁判員の方々のこれらの発言を聞いていて、この方々は立派な社会人として優れた常識を備えているのだということに気づかされました。これらの裁判員の方々の発言があまりに新鮮で、裁判員に効果的な尋問や説得的な弁論をすることの難しさを感じたものでした。そして、私自身、昨年、弁護士として、初めて裁判員裁判の弁護活動を経験しました。自らの尋問技術があまりにも未熟であることを改めて痛感させられました。また、公判の進行も、当初公判前整理手続段階で想定されていた審理計画から少なからずずれが生じました。さらに、休廷中の法廷で、検察官と怒鳴り合いのけんかをすることにもなりました。結果的には、弁護人の事実及び法律上の主張は全て容れられ、全面的勝利ともいうべき判決をもらうことができたので本当に安心しましたが、評議室の密室で、裁判官と裁判員の方々がどのような話をしていたのかということを考えると、裁判が終わって半年以上たった現在でも、穴があったら入りたくなるような感覚に襲われます。修習生の傍聴がなかったことだけが、わずかな救いでした。そのようなことから、私にとって初めての裁判員裁判は、反省点の多いものとなりました。今後もこの思いを忘れることなく、プロフェッションとしてより一層の精進をして参りたいと実感した事件でした。