裁判員制度について
大橋 賢也 (弁護士)
今回は,2009年(平成13年)5月までにスタートすることが予定されている裁判員制度について少し書きたいと思います。既にご存じの方も多いかと思われますが,裁判員制度とは,簡単に言うと市民の方々が刑事裁判に参加して,裁判官と一緒に,有罪無罪を判断し,有罪の場合は刑罰を決める制度です。市民の方々が,刑事司法に参加されることで,刑事司法に健全な社会常識を反映させることができ,ひいては司法全体に対する国民の信頼が高まるものと期待されています。私達横浜弁護士会におきましても,来るべき裁判員制度に備えて様々な準備をしております。
その中で私が直接体験させていただいたものが,平成19年11月10日(土)に横浜開港記念会館で行われました弁護士フェスタの中の弁論バトルという裁判員劇があります。これは,ある殺人事件を題材にして,検察側の論告と弁護側の弁論を聞き,その上で弁護士等が扮する裁判官3人と裁判員6人が,各々の考え,悩み等とぶつけ合いながら最終的に被告人が有罪であるのか無罪であるのかを評議するというものです。
私はこの劇の中の弁護人役として出演させていただきました。
はじめは弁論要旨をいつもより大きな声で読み上げればよい,と安易な考え方でいましたが,いざ稽古に行ってみるとプロの演出家の先生の大変厳しい指導が行われており,弁護人役を引き受けたことを大変後悔しました(気持ちが前に伝わっていない,どこが重要なのかが分からないなどの指摘を受けました。)。 普段やっている弁論と大きく違うと痛感したのは,弁論要旨を単に読み上げるというのではなく,裁判官特に裁判員に対して検察側の立証責任が果たされておらず,有罪であることに合理的な疑いが残ること,弁護側の主張が説得的であること等を熱く熱く語りかけなければならない,というものでした。
もちろん劇である以上それは当然のことかも知れませんが,しかし実際に裁判員制度が実施された場合には,裁判員の方々にできるだけわかりやすく訴えかけるような弁論をしなければならないのだと思います。また弁論ばかりでなく,証人尋問や被告人質問も同様に裁判官,裁判員に聞かせるという意識を今まで以上に強く持たなければならないのだと思いました。それと同時に普段の刑事事件において裁判官に聞かせる尋問,弁論をどれだけ意識できていたのかも改めて考えさせられました。
今回はあくまでも劇でしたが,裁判員制度に向けて,現在の意識を変えるとても貴重な経験をさせていただいたと思います。今後は日々の刑事事件の中において聞かせる尋問,弁論を実践していきたいと考えております。