裁判員制度と市民感覚
竹内 克己 (事務局)
平成21年から,裁判員制度が開始される予定ですが,かかる裁判員制度の模擬裁判が平成17年5月17日,横浜地方裁判所で開かれました。 私は弁護人役の1人として模擬裁判に参加しました。 検察官は,被告人が相手方の胸部を牛刀で故意に刺したものとして殺人罪等で起訴し,弁護人は牛刀が偶然相手方の胸部に刺さってしまったものとして実行行為を否定しつつ,殺意も否認しました。
今回の模擬裁判は,裁判員は一般の方(地裁委員の皆さん)を採用して行われたものであり,如何に彼らに分かりやすく争点及び弁護人側の主張を理解してもらうかに苦心しました。弁護人も検察官も双方でパワーポイントを使用して視覚的にも裁判員に説明するという試みも行われました。
今回の模擬裁判の1つの目玉は,終結後の評議を公開したことでした。 評議では職業裁判官である3人の裁判官は実行行為性あり,殺意ありという心証を初めから固め,実行行為性・殺意の有無について疑問を差し挟む意見を裁判員が発言すると間髪入れずに右陪席・左陪席裁判官が当該意見を弾劾するという構図が終始とられていました。
結局,評議の結論は実行行為については,なし崩し的に「あり」と認定され,殺意については裁判官が裁判員を説得した結果,6対3で殺意ありという評議がなされました。
裁判官による説得にもかかわらず,3人の裁判員の方が「殺意なし」とした結果から見て,職業裁判官と一般市民の感覚のずれというものが表面化しました。
今回の模擬裁判では裁判員にわかりやすい裁判をどのように実現するか,評議の方法をどうするのか,職業裁判官と一般市民の感覚のずれをどうするのかなど多くの問題点が浮き彫りになり,とても有意義な模擬裁判だったと思います。
以上