被疑者国選対象事件の拡大について
菊池 博愛 (弁護士)
国選弁護人は刑事事件において,被告人が貧困その他の理由により私選の弁護人を選任できない場合に国が弁護人を選任するという制度です。 平成18年10月以前は,起訴された被告人のみが国選弁護人をつけられることになっていましたが,平成18年10月からは一部の重大事件(殺人,強盗など)については起訴される前の被疑者の段階でも国選弁護人がつけられるようになりました。 これにより国選弁護人が捜査機関による被疑者に対する自白の強要を監視したり,被疑者が最初から自白しているような事件であれば被害者との示談に向けての早期の活動ができるようになりました。
そして今年の5月からはこの被疑者国選の対象となる事件が拡大され,ほとんどの事件で被疑者国選弁護人がつけられるようになります。
ここまで書くと被疑者国選の制度は良いことばかりのようですが,現在,問題となっているのは担い手となる弁護士の不足です。
横浜弁護士会川崎支部では弁護士の数が約100名となりましたが,被疑者国選対象の事件は年間900件弱あると予想されており,100名の弁護士が全員被疑者国選事件を担当したとしても年間9件くらいは担当することとなります。この件数でも普段あまり刑事事件をやらない弁護士にとっては多いと思いますが,実際には弁護士が全員被疑者国選事件を担当するというわけではないので,実際に担当する弁護士にはかなりの数が配点されるのではないかと思われます。
事務所の事情や家庭の事情によって被疑者国選事件をやりたくてもやれない弁護士もいることは事実ですが,被疑者国選弁護人の担当者が集まらないことの一番の原因は報酬が低廉であることだと思います(そう言えば,先日被疑者国選の報酬を過大に請求していた弁護士がいたという報道もありました。)。
国選報酬が低廉だという問題については法テラス(法務省所管の「日本司法支援センター」の愛称で国選弁護人の報酬を決める業務も行っています。)も認識しているようであり,昨年も被告人国選報酬が若干増額になるなど徐々にではありますが改善されつつあります。しかしながら,現段階では解決にはほど遠いレベルといわざるを得ません。
幸にして当事務所の所長は法テラス川崎の支部長をしていますので,国選報酬の増額に向けて積極的に活動して頂くようプレッシャーをかけているところです。