「福祉ネットワークみやまえ」のオンブズパーソン活動
本田 正男 (弁護士)
今年はわたしにとって,弁護士登録12年目の年に当たりますが,弁護士になった最初の年からこれまで欠かさず取り組んでいる活動の1つに川崎市宮前区における福祉のオンブズパーソン活動があります。 OP(オンブズパーソン)活動というと,弁護士として,普段法廷などで行っている訴訟活動などに比較して,活動が一般に知られておらず,係わりのない方には,その内容をイメージしにくいようにも思われますので,今回は,これまでわたしの係わってきたOP活動について,お伝えさせて頂ければと思います。
福祉OPは,チームを組んでネットワークに加入した福祉施設を定期的に訪問し,施設を利用する方々が日常の生活の中で不安に感じたり,体験する不都合なところなど制度上運用上改善すべきと考えられる問題点を,施設利用者の立場に立って,その声を吸い上げ,これら問題点について,OPが集い定期的に開催される委員会において,全員で意見を出し合って多角的な検討を加え,施設側とも協議等行う中で,よりよい施設運営のあり方を模索することを基本的な活動内容としています。 高齢者であったり,障害者であったり,一般に社会的に弱い立場に立つ福祉施設のサービス利用者の方々は,たとえ,緊急の対処を必要とするようなケースであってすら自分のことについて言い出しにくい心境にあります。 ましてや,サービス内容の改善要望などを施設側に伝えることには非常な困難が付きまといます。そんなとき,(施設側の立場ではなく,)第三者の立場で相談に応じ,適切なアドバイスを与えてくれ,また,交渉も行ってくれるような人や組織があれば,利用者の方にとって,どれほど心強いだろうかという想いがこの活動に携わる原点になっています。
わたしの所属する「福祉ネットワークみやまえ」というOP組織は,区民,企業,行政からなる宮前区区づくりプラン策定委員会の中の福祉専門部会で活動が生まれ,平成9年(1997年)~平成13年(2001年)3月までの間準備活動が行われました。 趣旨に賛同しOPによる相談活動を受け入れる福祉施設を探し,OP役を担う福祉や法律の専門家を見つけ(ちなみに,わたしが弁護士登録をしたのは平成10年4月でしたので,前述のように,弁護士になったばかりの頃に,この準備活動に係わるようになりました。),会を運営する市民側の体制を整え,運営に必要な経費を得るために賛助会員を募ったり,行政による補助金を獲得するなどの準備が行われました。 そして,平成13年4月からは,正式にネットワークの活動がスタートし,現在は,高齢者や障害者などの福祉施設合計9施設(利用者総数400人以上)の相談活動を2か月に1回程度の割合で行っています。 相談活動を担当するOPは,学識経験者・精神保健福祉士・司法書士・弁護士などの福祉や法律の専門知識を有する者たちで,これらOPの前述のような訪問活動を,利用者の目線からボランティア精神で会の運営に当たっている市民会員と,会の趣旨に賛同してくださる多くの賛助会員が支えています。 また最近は,年に1回「高齢者・障害者福祉110番かわさき」を開催し,OPの協力のもと,市民のための福祉電話相談も行うなど活動の幅を広げつつあります。 たとえば,施設内での転倒事故による怪我など生命身体の安全維持に直接係わるような問題が重大であることは自明ですが,これまでの活動の中で,むしろ,買い物や趣味の活動などそれ自体は必ずしも生存に不可欠とまでは考えられないような日常の問題を一つ一つ改善してゆく過程で,わたし自身,人が人として生きていく,人間らしい暮らしをするということの意味を問われているように感じています。
すでに神奈川県内においても,高齢者・障害者の人権擁護を目的とするいくつものOP活動が立ち上がっていますが,その多くは,施設において自発的に設置された,いわば施設内OPに過ぎません。 これに対し,「福祉ネットワークみやまえ」は,前述のように,市民の中から自発的に立ち上がり,現在に至るまで,市民活動及びこれと一体となった専門家集団によって運営された自主独立の活動を継続しており,まったくの第三者的立場から施設の活動を検証している点で独自の存在意義を持ち合わせています。 高齢者社会の進行に伴って,人権擁護活動の中でも高齢者・障害者に係わる分野の活動の重要性が日増しに高まっていることについては異論のないところであろうと思いますが,上記ネットワークのような活動が広まっていくことは(今年からは,当事務所の若松みずき弁護士にも新しくOPに加わってもらっています。),上記のネットワークの独自性と相まって,今後の高齢者・障害者福祉のあり方に光を当てることにつながると確信しています。