相模原市人権委員就任にあたって

弁護士 本田 正男

 2017 年1 月発行の事務所報21 号で、当時川崎で頻発していたヘイトスピーチについて、書かせていただきました(https://kawasakisougou.jp/archives/川崎からヘイトスピーチの根絶を目指して/)。
 その後、川崎市では市民の力を得て、2019 年12 月全国で初となる刑事罰規定を盛り込んだ「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が制定されました。
 条例は、2020 年7 月には全面施行され、その後も、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向け、闘いが続いています。

 そして、この川崎の動きを追い、次に積極的だったのが、(神奈川県内では)相模原市になります。
同市は2019 年に有識者らによる審議会を立ち上げ、昨年2024 年3 月に審議会の出した答申では、人種、民族、国籍、障害、性的指向、性自認、出身を理由とするヘイトスピーチについて、概要を公表することや、著しく悪質な場合は過料や刑事罰といった罰則を付けることが示されるところまできました。
 相模原市は、当該答申を受け、弁護士や大学教授といった専門家に見解を求めるなどして検討しましたが、結果、条例制定にあたって、罰則については、市内のヘイトスピーチの現状や、憲法の表現の自由との関係から盛り込むことは難しいと判断した一方、津久井やまゆり園の事件を視野に入れ、全国で初めて障がい者に対するヘイトスピーチについて、概要を公表する規定が設けられました。
 また、成立した条例では、ヘイトスピーチにあたるかどうか審議する、有識者らによる「人権委員会」が設置され、悪質なヘイトスピーチに対して市長が声明を出すといった内容も盛り込まれました。
 この人権委員会に関する条例の規定は、2024 年4 月1日から施行されましたが、この度、縁あって、私も神奈川県弁護士会の推薦を受け、委員の一人として選任されました。

 自分自身何ができうるのか未だ手探りではありますが、大きく言って、(1) 人権に対する感覚と、(2) インターネット上の差別的な書き込み対する技術的な対応という二つの要点が大切なのではないかと思っています(川崎でも、上記の条例が目にみえるヘイトデモや集会に対して大いに抑止力を発揮していることは確かですが、ネット上の誹謗中傷に対しては、尚課題が山積しているように感じられます)。

 特に、「津久井やまゆり園」で19 人もの知的障がい者が殺害された事件については、今でもネット上に差別的な書き込みが相次いでいることが報告されています。
 死刑判決を受けた元職員の差別的な考えを肯定するようなネットの掲示板の書き込みに対して、私たちは、なけなしの知恵と無定形な心でどのように抗うべきか、平和で穏やかであるべきお正月に、普段時間がなくて開けることすら叶わない「橋のない川」の文庫本の頁を食いながら、今年もまた、少しでも滋養になる手持ちの知識を増やしつつ、人格のすべてを試されるかの様な曲がりくねった日々が続きそうな気がしています。