生活保護申請等の日弁連援助事業の活用を

高柳 馨 (弁護士)

 昨年9月以降の円高や株価の暴落のために多くの企業は大幅な減益となり、雇用状況は益々悪化し、平成10年以降ずっと3万人を超えている自殺者数も、都市部におけるホームレスの方々の数もなかなか減少しそうにありません。このような時だからこそ、生きるための最後の砦である生活保護制度が十分に機能する必要があります。

 生活保護世帯は、1992年に58万6千世帯でしたが、2007年には110万5千世帯に激増しており、国や地方自治体の財政上の負担も激増しています。財政難にあえぐ地方自治体の中には、「水際作戦」(窓口で生活保護の申請をさせず「相談」扱いで追い返すこと)や「硫黄島作戦」(いったん保護を適用し【上陸させ】てから面接や家庭訪問で就労恫喝などの個別攻撃を加えて保護を打ち切ること)と呼ばれる違法な作戦を敢行して、保護を受ける要件を満たしている人に保護を与えないところもあるという指摘もなされています。

 憲法25条は、すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有すると高らかに宣言しており、これを受けた生活保護法は、すべて国民は(中略)この法律による保護を無差別平等に受けることができると規定しています(2条)。財政難を理由に保護要件を満たしている人に生活保護を受けさせないことがあってはならないことは言うまでもありません。

 そこで、生活保護の受給要件を満たしているのに「水際作戦」や「硫黄島作戦」などにより受給を受けられない方々について、弁護士や司法書士の援助が受けられるようにする必要があります。まず、思い浮かぶのが法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助事業ですが、現在のところ生活保護申請などの行政手続を援助対象としておらず、使えません(将来的には法テラスで行うべき扶助事業とすべきであると思います)。現状では、日弁連の生活保護申請等の代理援助事業があり、その事務が昨年10月から法テラスに委託されております。この制度では、日弁連が被援助者の生活保護申請等の弁護士費用を支払いますので、被援助者は費用の心配をすることなく、弁護士の援助が受けられます。弁護士に支払われる金額は、生活保護申請については報酬5万2500円と費用2万円、生活保護法に基づく審査請求については報酬10万5千円と費用2万円となっています。現在のところ、この制度の利用は非常に少ないのが現状ですが、冒頭に述べたような我が国の状況から、この制度をもっと活用する必要があると思います。