法テラス開業1周年を振り返って

高柳 馨 (弁護士)

 法テラス(日本司法支援センター)は,昨年10月に開業1周年を迎えました。私は,開業から現在まで法テラス川崎の支部長を務めさせてもらっておりますので,法テラス川崎の現状と課題をまとめてみます。

 法テラスの業務は,① 情報提供業務,② 民事法律扶助業務,③ 刑事国選弁護  ④ 犯罪被害者支援  ⑤ 司法過疎対策 ⑥ その他,となっております。神奈川県では,横浜市中区に地方事務所(法テラス神奈川)が,川崎市及び小田原市に支部(「法テラス川崎」及び「法テラス小田原」)が設置されており,横須賀市及び相模原市には法律扶助の拠点が置かれております。

 まず,情報提供業務ですが,情報提供は中野坂上にあるコールセンターと地方事務所(支部)において行っており,コールセンターにおける情報提供量は当初予測よりかなり下回っている反面,地方事務所における情報提供量は着実に増加しており,法テラス川崎の情報提供は昨年9月に200件を上回りました。

 次に,民事法律扶助業務とは,資力の乏しい方に無料法律相談を行い,必要な場合,弁護士等の法律専門家を紹介し,弁護士費用等の立替えを行う(「代理援助」といいます)ものです。法テラス川崎の法律相談件数(月間件数)は,昨年7月には159件に達し,開業当初の2倍を優に超える件数に増加しております。相談種類別では,破産等(破産,債務整理,個人再生)が43%,家事 (主に離婚)が30%などとなっております。また,法テラス川崎の代理援助件数についても,開始決定月間件数が昨年6月に80件を突破し,開業当初の4倍に達しました。これも契約をしていただいている多数の弁護士,司法書士の先生方のご協力の賜と感謝しております。

 国選業務は,川崎支部の契約弁護士数が被告人国選52名,被疑者国選33名であり,契約弁護士の先生方のご協力により滞りなく指名業務などを行っております。 さて,法テラスにはさまざまな課題があります。ランダムにあげますと,まず,職員数が足りません。法テラス川崎の職員は,情報提供を別として非常勤職員1名を含む3名ですが,この体制で,支部のない横須賀の業務も含めて対応しており,増加する一方の業務を前に,職員は体調が多少悪くても出てこざるを得ない状況です。次に,2009年5月の被疑者国選対応問題があります。2009年5月には被疑者国選が大幅に拡大され,川崎支部でも年間800件程度の事件数が想定されており,現在の契約弁護士数のままでは対処が非常に困難ですので,弁護士の先生方の一層のご協力をお願いするところです。次に国選弁護報酬の問題があります。最近になって,否認事件について記録全部の謄写費用が認められ,無罪加算が認められるなどの改正が行われましたが,全体としてその報酬は低廉と言わざるをえません。更なる改善が必要と思います。次に民事代理援助の着手金,報酬の適正化の問題があります。ただし,国選事件報酬と異なり,民事代理援助は立替払になっているために依頼者の負担も考えなければなりません。免除制度などを積極的に使って依頼者の負担の軽減をはかりつつ,適正な着手金,報酬の算定がなされるように努力したいと思っております。 

 今後も,皆様方のご支援ご協力をいただいて,あらゆる人が法による紛争の解決を受けられる社会の実現をめざして,努力していきたいと思います。