模擬接見を体験して
大橋 賢也 (弁護士)
1 去る平成21年10月5日(月),新62期司法修習生を対象とした選択型実務修習プログラムの一つである模擬接見が,横浜弁護士会館で行われ,私は,4人の先生方と一緒にこの模擬接見を担当しました。模擬接見とは,当番弁護士と被疑者国選で選任された弁護人が接見に行くという2つのテーマを設定し,我々弁護士が被疑者役を演じ,修習生に弁護士・弁護人役を演じてもらうというものです。以下,紙幅の関係上,当番弁護について私が感じたことを記します。
2 当番弁護の事案ですが,平成21年10月5日午前1時ころ,被疑者「押本学」氏(仮称)が,深夜通りがかりのマンションの1階のベランダから女性の下着1枚を盗み,窃盗罪で現行犯逮捕された,というものです。押本氏は広告代理店に勤めていて貯金が100万円くらいある,両親には逮捕されたことをどうしても黙っていてほしい,キャッシュカード(MD銀行MA支店)を渡し,カードの暗証番号を教えるので口座から被害弁償金と弁護士費用を下ろして欲しい旨希望している,前科なし(ただし,余罪あり)という事例を設定しました。私達は,事前に当番弁護士として何を聞くべきかをまとめたチェックシートを作成し,修習生がどのような質問や回答をするのかをチェックしました。
私は,押本役を演じたのですが,このときに気になったのが,①修習生がまず最初に聞くべきはずの「具体的事案に突っ込んだ質問」をせずに,逮捕の時間や勾留期間といった法律の説明をしたがること,②押本氏は,被害者と示談をして一刻も早く釈放して欲しいという希望を持っているのに,「やったことが間違いないのであればある程度身柄拘束されてしまうのは仕方がない」「あなたが素直に話して警察や検察から信用されることも大切だ」などといった回答をする人が複数いたこと,③そもそも示談の話が出てこない,④受任するとしても弁護人選任届書を差し入れない(そもそも弁選を知らない?),などでした。押本氏の立場に立ってみると,特に②のようなことを言われてしまうと,本当に心細くなってしまいますし,一体自分はどうなってしまうのかと不安になってしまいます。同時に,日頃自分が接見に行ったときに,被疑者にこのような不安を感じさせていないかということをよくよく注意しなければならないと感じました。また,キャッシュカードを預かり,暗証番号を教えてもらって口座からお金を下ろすということも危険を孕んだ行為なので,実際にそのような依頼を受けた場合には注意しなければならないと思いました。
3 また,被疑者国選について一言だけ述べさせていただくと,被疑者が勾留事実とは一部異なった供述をしているという設定だったのですが,修習生が勾留事実を1つ1つ読み上げて確認していかなかったため,両者の齟齬がなかなか確認できないという問題点がありました。
4 いろいろと気になったことを書きましたが,これらはすべて自分が実務において気を付けなければならないことだと改めて感じました。また,諸先輩方と一緒に作業をしていると,いろいろな経験談等を聞けたり,悩み事を相談することができ,これも大きな収穫でした。修習生は2回試験を目前にした時期にもかかわらず,一生懸命模擬接見に参加してくれていました。全員が無事2回試験に合格し,実務家として切磋琢磨していくことができたらと感じています。機会があれば,また来年も模擬接見を担当できたら幸栄です。