東へ西へ
熊谷 靖夫 (弁護士)
私が弁護士の仕事について,弁護士という仕事に抱いていたイメージと実際とが違うことの一つに「移動が多い・移動で奪われる時間が長い」ということがあります。
弁護士というと,事務所で執務したり,裁判所で法廷活動をおこなったりという姿が思い浮かばれると思いますが,実は移動に費やされる時間というのが非常に無視できないのです。
まず,裁判所で法廷に立つためには裁判所に行かなければなりません。 法律上,事件によって受け付ける裁判所が決まっていますから,常に近くの裁判所に行けばよいと言うわけにいきません。 川崎の裁判所であれば弊事務所から歩いて5分程度ですが,横浜市内の横浜地方裁判所であれば片道1時間弱かかります。 より遠い裁判所であれば・・・。次に,弁護士には弁護士会の会務活動があります。弁護士会館は横浜地方裁判所の隣にありますから,川崎支部の弁護士が会務活動に参加するためにはやはり片道1時間弱かけて行かなければなりません。 さらに神奈川各地にある役所や弁護士会法律相談センターでの法律相談,刑事事件での被疑者・被告人に接見するために各地の警察署や拘置所に行くことなど,弁護士の活動は移動が欠かせません。 同じ時間帯に法廷や会務活動をうまくまとめることができるならば移動の回数や移動時間の節約ができますが,うまく合わないとき,例えば朝1番で川崎の区役所の法律相談を行い,次に横浜地方裁判所で法廷に出て,事務所に戻って打ち合わせをして,弁護士会本部で委員会に参加して事務所に戻りさらに川崎北部の警察署へ接見に行くとなると1日の半分以上は移動時間で消えてしまいます。
移動時間をうまく仕事に使えると仕事の能率が上がるのでしょうが,混み合う電車の中ではなかなか仕事の資料を広げる訳にはいきません。 そして移動はとても疲れるものです。 そこで,最近移動時間がすこし余裕をもって確保できる場合には自動車を運転しての移動を取り入れてみました。 電車での移動に比べるとコストや時間が少しよけいにかかるという面ではマイナスですが,運転することが好きな性格や重たい記録を抱えての電車の乗り継ぎや混雑した車内でもみくちゃにされること等から解放されるため,移動による疲れが格段に違います。
現在,裁判所では電話会議システムが導入され,まだ片道1時間程度の距離であれば出廷を求められますが,遠方にいる当事者が遠路はるばると法廷まで行かなくてもよくなりました。 今後科学の進歩により,弁護士が東へ西へと移動するロスが少なくなるのでしょうか。