「日弁連シンポジウム 離婚後の子どもの幸せのために」
本田 正男 (弁護士)
私も委員として所属している日弁連の両性の平等に関する委員会では,毎年委員会の年度が終わる時期に,そのときどきに両性の平等の観点からもっとも問題と考えられるような事柄を取り上げてシンポジウムを開催してきましたが,今年は,5月15日の土曜日に日弁連主催のシンポジウムとして,離婚後の子らの面会交流と養育費の支払いの問題を中心的なテーマに開催しました。
当日は,パネリストして,DV問題の第一人者であるお茶の水大学副学長の戒能民江先生,海外の家族法制度に精通され,特にカリフォルニア州の制度運用にお詳しい早稲田大学教授の棚村政行先生,児童虐待が子へ及ぼす影響などについて医学的臨床的な観点から長年研究を行っていらっしゃる慶応義塾大学病院小児科外来医長の渡辺久子先生,そして,多数の離婚事件の経験の中から裁判実務に関する現場の声を届けていただく意味で横浜弁護士会の川島志保先生にそれぞれご参加いただき,私も雑用係兼コーディネーターとして参加させていただきました。
シンポジウムの開催にあたって,両性の平等に関する委員会では,シンポジウム実行委員会を組織し,昨年の秋以来半年間かけて準備してきましたが,当初委員同士で繰り返し話し合いの機会をもち,シンポジウムのテーマを含め種々のアイディアを検討していった際に,もっとも議論となったことは,委員が日常弁護士としていくつもの離婚事件に係わる中で感じていた,「なぜ,面会交流は,いつも上手くいかないのか。」という離婚後の子の面会交流の困難性についての体験に基づく素朴な疑問でした。
今回のシンポジウムの開催に向けては,数多くの外国の法制度やその運用実態についても調査を行い,また,上記のような超一流のパネリストの先生方からご研究の成果をご披露いただく中で,法制度の面でも,面会や養育費など子のための制度の整備が日本ほど立遅れている国はないという実感をもちましたが,他方で,日本の離婚後の子らの面会が上手くいかない原因には,そのような法制度の問題だけでは説明のつかない理由もあるようにも感じられました。今回のシンポジウムの準備は,この面会を巡る素朴な疑問に対する答えを探し求める行程であったように思います。準備に向けた実行委員の話し合いは繰り返し長時間に及び,いくつもの事例が検討の対象とされましたが,最終的にたどり着いた考えは,離婚の前に,父親と母親が結婚生活を営んでいた当時の夫と妻,そして,子どもとの生活,つまりは,日常の家族の生活の中にこそ,離婚後の面接が上手くいかない原因が潜んでいるという結論でした。ここでは事例を引いて具体的に説明する余裕がありませんが,日常仕事は夫,子育てを含む家事は妻という典型的な性的役割分担下にある家族の場合,夫は連日夜遅くまで働き子どもの顔は寝顔しか見たことがなく,妻は経済的にも夫に依存せざるを得ないという家庭内での立場が固定化されているように思います。
たとえば,共働き夫婦の家事労働時間の国際調査では,日本では,妻が毎日4時間24分間家事労働するのに対して,夫の家事労働時間は僅か30分間で,イギリス・フランス・スペイン・ベルギー・ドイツ・フィンランド・スウェーデンといった国々の夫がいずれも毎日2時間前後家事労働を行っていることとは対照的な調査結果がでています。そして,日本の性別賃金格差は先進諸国の中でもっとも大きく,世界経済フォーラムによる男女の格差を示す「ジェンダーギャップ指数(GGM)」では,2009年には,日本は,世界134か国中101位と極めて低い地位に止まっているのです。このような夫婦が一旦離婚という形で解消したとき,(現在の日本の法制度にあっては,父親母親のいずれが法律上の親権者となる訳ですが,)いずれが親権者となろうとも,それまで子の毎日とつながりの薄かった父親が急に子の成長や監護にかかわろうとしても困難を伴うことはある意味あまりにも当然ではないでしょうか。日本では,子育てに直接必要な法制度の整備の以前にそもそも,男女が共同して社会に参画していくという社会の前提構造そのものに問題があるのではないかという想いを新たにした次第です。