性同一性障害について
熊谷 靖夫 (弁護士)
「身体は男性であるが心は女性である」あるいは「身体は女性であるが心は男性である」ことについて違和感を感じて悩んでいらっしゃる方がおられます。このような悩みは性同一性障害といわれるものです。
社会生活においては,トイレや更衣室,制服など性別による区分けが設けられていることが多く,心の性と身体の性の違いに違和感を持つ方が,心の性に従って生活をしようとすると様々な,不都合が生じてきます。さらに,法律においても性別に関係するものがあり,戸籍や住民票,旅券の記載の問題,婚姻の問題など,心の性に従って生活するにはたくさんの壁があります。
近年,性同一性障害に関する認識や理解が高まり,性同一性障害者が社会において差別されることなく安静に生活ができるように様々な取り組みが行われております。
平成15年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が制定され,性同一性障害者が一定の要件・手続きのもとで戸籍上の性別を変えることが可能となりました。
また,日本精神神経学会は平成18年に「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第3版)」を発表し,これまで性別適合手術(陰茎切除術や子宮摘出術など)の実施には倫理委員会による個別承認が必要としていたものを,専門医や有識者で構成する性別適合手術適応判定会議による判断で手術が可能と変更しました。倫理委員会の設置および倫理委員会による個別承認手続は,ごく限られた医療機関でしか行えないものであったため,従前のガイドラインのもとでは,日本国内の医療機関で性別適合手術が行われた数は,性別適合手術を必要としている性同一性障害者の数と比較してかなり低いと言われておりました。そこで,ガイドラインの改定により,大規模な医療機関ではなくても,地域の医療機関が連携して医療チームや性別適合手術判定会議を組織することが可能となり,性同一性障害者の治療が迅速に行われることが期待されております。
私は,知り合いの医師からの誘いで,性同一性障害者治療のための医療チーム・性別適合手術判定会議の結成に関する研究会に7月より出席し,関係法令やガイドラインなどの法的な分野からの検討に携わっております。性同一性障害者に対する治療の判定においては,さまざまな価値観や倫理観も影響してくるところに難しい問題があると感じております。研究会を通じて,正当な治療行為が迅速かつ適切に行える体制作りのお役に立てたらと思っております。