弁護士業とAI
菊池 博愛 (弁護士)
当事務所の所長は将棋を趣味としており,私が当事務所の入所のための面接の際に所長と将棋を指したというのは知る人ぞ知る話です。ただ職場では秘密にしているのですが,実は私は将棋よりも囲碁の方が好きで毎週日曜日のNHKの番組を録画して見ているほどです。時々事務所に囲碁のお誘いのFAXが入ってくるのですが所長に見られやしないかとヒヤヒヤしています。
ところで将棋はコンピュータが人間より強くなって久しいですが,コンピュータが人間を超えるのは難しいと言われてきた囲碁の世界でもプロ棋士はほぼコンピュータに勝てなくなりました。最近の人工知能(AI)の発達は目覚ましいものがあります。今ではほとんどのプロ棋士がAIを研究しているようであり,以前では考えられなかったような手がAIによって打ち出され,それを参考にしたプロ棋士もAIの打った手を打つようになり,それがやがて定石となるといった現象がいくつもあるようです。
ただし,囲碁にも芸術的な要素があり,碁形の美醜もあります。AIの打つ手は勝負には勝つかもしれませんが,形が美しくないという評価がなされることもあるようです。形だけの問題ではないとは思いますが,一流プロ棋士の中にもAIの打つような手は絶対に打たないというポリシーの方もいらっしゃるようで私もそのような棋士を応援したくなる性分です。
さて,このままAIが発展していくと不要になるだろうと言われる職業の中に弁護士があげられることもあります。弁護士の仕事も囲碁と同様に勝ち負けがある世界であり,依頼者から適切に事情を聞き取り,取るべき手続や法律構成を選択したり,説得的な文章を作成するといった業務はもしかしたら人間よりAIの方が優ってしまう時代が来るかもしれません。
しかし,弁護士の仕事のすべてがAIで置き換えられるかというと,それはさすがに無理ではないかと思います。依頼者の方に寄り添ったり,励ましたりすることは人間の方が向いていると信じたいところです(でも犬のロボットに心癒やされる場合もありますね。)。また,いくら勝負とは言え,すべての訴訟に勝てば良いのかというとそうでもない場合もあります。勝ちすぎてしまったために新たな紛争が起きて当事者が心理的な負担を負うということもありますので,双方折り合えるところで和解するのが最善という場合も多々あります。そのような判断をすることやそこに至るまでの依頼者との腹を割っての話し合いはAIでは難しいのではないかと思います。
この年も依頼者から信頼される弁護士を目指して日々研鑽したいと思います。