弁護士の業務と情報セキュリティ~私の秘密守ってもらえますか?~

本田 正男 (弁護士)

 もしも弁護士に品格があるのなら、その高い低いを決める決定的な要素の一つは間違いなく他人の秘密が守れるのかという点にあると思います。弁護士の仕事は毎日否応なしに他人の大切な秘密に接します。弁護士の鞄や頭は、好き嫌いにかかわらず秘密の出来事で一杯です。他人の秘密をしっかりと護り迂闊に垂れ流すような事のないよう細心の注意を払うことは弁護士としての本来の業務そのものだと云っても少しも大袈裟ではありません。

 近頃は一度猟奇的な事件でも発生しようものなら、被疑者に接見したばかりの弁護士に勾留場所から出てきたところでテレビカメラやマイクが向けられていますが、中には被疑者はこれこれと話していますなどと時には犯罪事実についてまで事細かに語っている弁護士がいたりして、正直目を覆いたくなるようなこともしばしばです。

 実際最近の弁護士の懲戒の案件などをみても、ファックスを表裏逆にして別事件の資料を送ってしまったケースなどがありますし、弁護士と情報管理の問題は弁護士の業務の堅牢さを測る一つの指標になっています。特にここ数年はデジタル機器や情報ネットワークの発展に伴って、情報の伝播、拡散、そして回復の困難性といった総体としての影響の大きさがひと昔前とは比較にならない、といいますか、かつて経験したことのない様なところに来ていることは誰の眼にも明らかだと思います。

 そこで上記のように情報管理に関する危険性が増大している状況を受け、日弁連ではこの問題の検討に特化したワーキングチームを立ち上げ、文書や証拠の管理、ファックスやメールなどの操作に関わる注意点、PCやタブレット、携帯電話などの電子機器、情報端末の扱いなどについて、この間2年ほどをかけて(ミニマムな)行為準則を検討してきました。私もこのワーキングの一員として立ち上げのときから関わらせていただき弁護士の業態に即してどこに落とし穴が潜んでいるかなどを考え明日は我が身と思って取り組んできました。IT技術の進歩には限りがなく、またソーシャルネットワークの利用拡大に見られますように情報管理の観点からは新たな脅威となるような課題も次々と提起されています。どこまでいってもこれで完全というようなところには行き着けませんが、一昨年には会員向けのアンケートなども実施した上で、昨年度にはさしあたり「弁護士情報セキュリティガイドライン」として一応のとりまとめを行い成果物を作り上げるところまできました。すでに研修用のビデオなども製作していますが、今後はこのガイドラインを会員間で周知し、研修の機会をもつなど弁護士を利用する市民の皆さんにも安心をいただけるよう業界として、そして事務所として、また個人としても一層の安全に配慮し技量を高めていきたいと思っています。