弁護士という仕事
熊谷 靖夫 (弁護士)
私は,小さい頃から機械などをいじることが好きで,電化製品,時計,家具に住宅設備,自転車やバイクなど,どこか不具合があるとまず自分で修理できないか,チャレンジしてきました。壊れた腕時計の裏蓋をはじめて開けたときに,小さな歯車やバネなどが並んでいる様子にワクワクしたことを覚えております。
修理の説明書の類が手に入ることは滅多になく,どのような手順でどのように修理すればよいのか判らないケースがほとんどです。まず不具合の品物ををじっくりと観察し,不具合の原因と不具合の場所,分解する手順を考え,分解するときには組み立てるときの手順を頭にいれならがらひとつひとつ部品を外していかないといけません。そして,故障の原因と思われる箇所にたどりついたら,部品の形,位置や動きなどを観察していると,あるべきところの部品が無くなっていたり,ずれていり,変形していたり,ケーブル等が切れていたり,通り道が詰まっていたりしているのが判ってくると,あるべき所に部品をセットしたり,調整,交換を行ないます。時には本で構造を調べたり,詳しい友人に相談したり,サービスステーションに問い合わせをしたりしたこともありました。
自分の手に負えなかったものも多数ありましたが,自分で苦労して修理を施し,再び機械が息を吹き返したときの達成感はこの上ないものです。また,その品物に対する愛着も深まります。社会人になってからは,時間がとれずに自分で修理をする機会が減りましたが,たまにドライバーなどの工具を握ったときには,時間を忘れて,ネジや部品と格闘しております。
今年の10月で,弁護士の仕事に就いて8年が過ぎました。依頼や相談を受けた案件は,教科書やマニュアルに書いてあることとピッタリ合っているような事案はほとんどありません。このため,1件,1件,依頼者の話を聞き,条文に当たり,文献や判例を調べ,時には仲間に相談することによって,問題の解決方法を見つけてきました。そして,苦労の末,問題解決ができたときには,大きな達成感,充実感に包まれます。
先日,動かなくなったバイクをオイルやガソリンにまみれて修理・調整をしたところ,再びエンジンに火がともるようになりました。動き出したバイクに乗って,ふと,小さいころからチャレンジしてきた修理作業は,弁護士になってからは,人と人との間の関係の修復・調整という形に変えて,仕事として続けているように思えました。
これからも,話を丁寧に聞くこと,資料や証拠などをよく観察すること,新しい法律や制度の勉強などを怠らずに精進して,信頼される弁護士であり続けたいと思っております。