巻 頭 言

若松 みずき (弁護士)

謹んで新年のお慶びを申し上げます

 少し前のことになりますが、2011年8月に新婚旅行でモルディブに行きました。その年の3月11日に日本では津波があったばかりだったので、海抜0メートルのディラに5日間も滞在するのは怖かったのですが、幸いなことに津波も地震も水の事故もないまま帰国することができました。

 モルディブに行くために、途中でシンガポールを経由し、11時間ほどシンガポールに滞在しました。

 シンガポールでは、駅の構内や地下道のような場所に大きなポスターが貼ってあり「日本の地震被害を支援しよう」というよ うな内容が掲げられていました(もちろん英語)。

 また、モルディブでも、「from Japan」と言うと、スタッフの方のほとんどが「地震や核被害は大丈夫か?」と心配してくださりました。世界の方々に日本の津波被害や原発事故による放射能汚染被害を心配されていることを感じ、心が温まりました。

 一方、当事者国の日本では、震災から2年近く経過してもまだ被害の爪痕が生々しく残っているにもかかわらず原発の再稼働が話題になっています。

 私は、原発の大きな問題点の一つは、放射性廃棄物の安全な処理方法が見つからないままに作り始めてしまったことだと考えています。今回のような事故が起こった場合に、原発が存在している地域住民の方々、作業員の方々に不可逆的な生命・健康被害を与えてしまう可能性もとても問題ですが、たとえ、事故が起こらなかったとしても、放射性廃棄物の問題は残ります。

 放射性物質は周囲の物質に放射能(放射線を発する能力)を与えていきます。地中深くうめてもいずれは地表に届くでしょう。全ての放射性廃棄物を埋められているわけでもありません。大飯の3号機と4号機が1年稼働すると広島原発の2000発分ほどたまってしまいます。

 仮に、事故が起こり、放射性物質が地中に沈めば、地下水が汚染されますし、空中を浮遊している放射性物質は風に乗って遥か遠くまで飛来し、雨と共にその地に降りそそぎます。降り注いだ放射性物質は長い間その地を汚染し続けます。

 今回大飯原発が再稼働しましたが、そのときに、事故にあえば被害にあうはずの小浜市(大飯原発から半径20キロ以内に全住民が居住)の意見は聞かれなかったそうです。活断層があると思われるのに、その調査もされていません。

 安心して水を飲み、食べ物を食べられる、そして安心して子供を育てて生きていくことのできる日本であって欲しいと強く願います。

 私の気持ちを代弁してくれているかのような詩があり、心に残ったので紹介します。新年早々暗い話題となってしまいましたが、当事務所の弁護士たちは、皆それぞれの分野で、次の世代により良い社会を残していけるよう奮闘しています。今後も当事務所をよろしくお願いいたします。

あとからくる者のために
苦労をするのだ
我慢をするのだ
田を耕し
種を用意しておくのだ
あとからくる者のために
しんみんよお前は
詩を書いておくのだ
あとからくる者のために

山を川を海を
きれいにしておくのだ
ああ後からくる者のために
みんなそれぞれの力を傾けるのだ
あとからあとから続いてくる
あの可愛い者たちのために
未来を受け継ぐ者たちのために
みな夫々自分でできる何かをしてゆくのだ

(坂村真民『詩集・詩国』より「あとからくる者のために」)
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