川崎からヘイトスピーチの根絶を目指して
本田 正男 (弁護士)
とある日曜日川崎駅から事務所に向かって歩いていた際に出くわしたデモが,ぼくがヘイトスピーチを目の当たりにした最初でした。いつものように急いでいたし,初めは何が起こっているのかよく分からなかったのですが,その集団は,ともかく容赦のない大きな音を立ていましたし,発せられる言葉の汚さは尋常なものではありませんでしたので,何か同じ空間に身を置いているだけで,傍観するということが許されないような気持ちになったことをよく憶えています。
ヘイトスピーチを巡っては,昨年の目立った動きだけを拾っても,3月31日に私の事務所と目と鼻の先にある,在日コリアン集住地域である桜本への国会議員による視察,これを受け,5月24日にはヘイトスピーチ解消法の可決成立,26日の参議院法務委員会では全会一致で「ヘイトスピーチの解消に関する決議」の採択といった出来事がありました。そして,それにも拘らず,再び申請されたヘイトデモに対し,福田紀彦川崎市長は,5月30日公園使用の不許可処分を英断し,さらに,横浜地裁川崎支部も6月2日に「人格権の侵害で,集会や表現の自由の範囲外」であるとして一定範囲のデモ禁止を命じる仮処分を下しました。また,これらの判断を受け,中原区の平和公園へ場所を移したものの,取り囲む多数の市民の勢いに押され開始直後に中止となった6月5日のヘイトデモについては,ニュースでも大きく報じられました(ちゃんと全員を数えられていないとは思いますが,現場では神奈川県弁護士会を中心に数多くの弁護士が不測の事態に備えて見守り活動を行っていました。)。
この事務所報の限られたスペースでは,ヘイトの問題について,考えを尽くすことは到底できませんが,少なくとも,一つだけ,ここにはっきりと書き残しておきたいことは,他人を傷つけるような権利や自由など誰にも認められないし,何処にもないということです。10月4日には機会を得て30名を超える川崎市議会議員の方々の学習会にお招きいただき,ヘイト規制の法的な問題点についてお話しをさせてもらったのですが,そのとき,ご一緒させていただいた被害女性の語る被害の実態には胸に迫るものがありました(特に,インターネット上の誹謗中傷は看過できないレベルに達していると思いましたし,この部分での法規制の立ち遅れを実感しました。)。市長の諮問に答え,川崎市人権施策推進協議会からの提言も昨年末に出されました。今年はヘイト規制を目的とした川崎市の条例制定に向けても市民の声を反映した実りのある規範を獲得していきたいと思います。ヘイトデモのような誰の目にも明らかな人権侵害行為が,当事務所のある川崎の地で,しかも,白昼堂々行われるようなことには耐えられません。新年にふさわしい健康な気持ちと志を持って,多くの市民とも連携しつつ,一弁護士としても,弁護士会としても,ヘイトの問題の解消に向けた活動にも今後とも地道に取り組みたいと思います。本年もどうぞ宜しくお願い致します。