少年事件について

大橋 賢也 (弁護士)

1 私は,東京地裁での実務修習中(平成17年9月の刑裁期間中)に,2週間東京家裁において,家事事件や少年事件を修習させていただきました。そのときにお世話になった東京家裁の部長から,「実務に出たら,年に1件でいいから,少年事件を担当してくださいね。」と言われたことを覚えています。この話を聞いて,私は,「少年事件というのは特殊な種類の事件で,弁護士は余りやらないものなのかなぁ。」などと漠然と思ったのを今でも覚えております。
 しかし,川崎という土地柄も関係しているのか良くは分かりませんが,私は,年に5,6件は少年事件を担当させていただいております。まだまだ勉強不足で,難しい事件も経験しておりませんが,以下私が実務に出てから経験した少年事件についての感想を記します。

2 私が,少年事件を担当していてしばしば感じるのは,その多くは家庭環境に恵まれていない少年が加害者になっているという点です。両親が既に離婚していたり,幼少期から両親に面倒を見てもらえず,長年施設で生活してきたためにほとんど両親のことを知らない,などという少年に何人か出会って来ました。家庭環境に恵まれていない少年の大部分が,事件など起こさずにまじめに勉強や仕事をしているであろうことからすると,直ちに家庭環境のせいにばかりするわけにはいかないと思います。しかし,両親の愛情を十分に受けるべき時期に受けられなかったというのは,本当にかわいそうなことだと思います。少年鑑別所に行き,両親のことに話が及ぶと涙を流す少年を見るにつけ,家庭環境が少年の生育に及ぼす影響の大きさについて考えさせられます。

3 また,一概には言えないでしょうが,成人よりも少年の方が,反省文や被害者宛の謝罪の手紙を分量的に多く書いて来るという印象をもっております。少年が書いた反省文には,被害者に対する謝罪の意思や反省の気持ちが書いてあることはもちろんですが,両親に迷惑を掛けてしまったことに対する後悔の気持ちが厚く書かれていることが多いと感じています。前述したように事件を起こした少年達は,家庭環境の犠牲者という側面があるように思われるのですが,両親に迷惑をかけてしまったという少年達の後悔の気持ちを読むと,その気持ちがしっかりと両親に伝わればいいな,と思います。

4 少年の親の中には,仕事が忙しいので審判に行けるかどうか分からない,などと言う人もいますが,やはりそれでは少年がかわいそうですし,社会復帰したとしても今後の両親との関わり方が非常に心配になってきてしまいます。このような場合には,少年が一日も早く定職に就いて,親から自立した生活ができるようになることを祈るばかりです。

5 私は,鑑別所等で少年と話をしているときに,「弁護士の仕事をしているなぁ」と感じることが多いので,今後もできるだけ積極的に少年事件にかかわっていきたいと考えております。