女性の人権の問題について
本田 正男 (弁護士)
手だけでなく,足の指を折って数えても足らないほど弁護士会の色々な委員会の活動に日々絡め取られているわたしの身体ですが,自分の委員会活動の本籍地は,弁護士に登録した最初から取り組んできた女性の人権の問題だと思っています。たまたま役回りで今年度日弁連の両性の平等に関する委員会の委員長のお役目を仰せつかりましたので(委員会ができた当初は,女性の権利に関する委員会という名称でしたが,その後両性の平等と改められ,最近では,性の多様化に伴ってLGBTQに関わる問題も扱っています。),この機会に,この新年の事務所報でも,ぼくの会務活動の原点である女性の権利の問題について,少し書かせていただければと思います。
ぼくは,(親は,別にジェンダー感覚を持っていた訳でもないように思うのですが,)まだ手塚アニメを見ていた子どもの頃から,大好きなおばちゃんに,結婚したら,毎日ぼくが皿洗ったり,掃除したりする,なんて話していたことを記憶していて(何かそうすることで,周りのウケが良いということを感じていただけなのかもしれませんが,…),あるいは,中学生の頃から,月曜日の深夜には落合恵子さんのセイヤングを聴いていたせいか,それとも,まるで日記でも書くようにヨーコのことを歌うジョンの音楽をずっと聴き続けてきたせいか,理由は未だにはっきりとしないのですが,平成10年に弁護士登録をした初めから,女性が被害者になる事件を受任する機会が多くありました。DVの事件や,セクハラ,性犯罪被害などの事件です。
そして,暴力に晒される女性の離婚の事件を何度も受任するうちに,底辺に一定の類型的な問題が横たわっていること,たとえば,みんな経済的に追い込まれた状態にあることや,共通して,子育ての負担が女性の肩にかかっていることの多いことなどに次第に気づくようになりました。これは社会問題と言い換えても良いと思いますが,要するに,能力や資質を超えて個人の力だけでは解決することのできない構造的な壁がこの社会には歴然と存在していることを否応なしに意識するようになったのです。そして,2006年からはフェリス女学院で,また,2007年からは横浜国大でも,ジェンダー問題についての講義を持つようになり,講義を準備するために,女性に対する暴力の実態や,収入の男女格差,女性の社会参画が進んでいないこと,圧倒的な国際的なジェンダーギャップなど語る度にため息の出るような惨状を憂うようになりました(たとえば,フェリスの講義は,1年生から4年生まですべての学年の生徒さんを対象にしていましたが,入学直後の1年生と就職活動を経た後の4年生とでは,世の中や会社に対する見方がまったく違ってきていることが印象的でした。)。
男性であるぼくが,異なる性である女性の人権の問題や性的な少数者の問題に気づけるかどうかは,人権感覚のリトマス試験紙のようなものだと思っています。他者の痛みを感じられること,想像できることは,人間の大切な能力の一つだと思います。年も改まりましたが,今年もまた弁護士として,女性に限らず,弱い立場の人に寄り添い,せめて司法の場で正義が実現されるよう微力ながら努力していきたいと思います。