大学での講義を担当して
本田 正男 (弁護士)
昨年の事務所報に,週に1度関東学院大学の法科大学院(ロースクール)で「実務倒産法」の講義を担当させていただいていることを書きました。 この講義は,引き続き今年も担当させていただいていますが,加えて,本年の4月からは,フェリス女学院大学での「女性と法」に関する一般教養科目を受け持つことになりました。 そのため,この4月から毎週水曜日は,午前中関内にある関東学院のサテライトスタジオで倒産法の講義をしてから,緑園都市に移動し,午後はフェリス女学院大学での講義という生活を送っています(ついでに言えば,火曜日の夜は,講義の準備に追われる生活です。)
ただ成るように成っているというだけのことかも知れませんが,弁護士を10年近くもやっていると,自分でも意識しないうちに取り組んでいる事件の分野に何となく濃淡ができてくるような気がします。 ぼくの場合,日弁連でも両性平等委員会,横浜弁護士会でも両性平等部会に籍を置いていて,いわゆるジェンダー問題に象徴される女性の権利に関する問題に関わることが多く(これは,あるいは,中学生の頃から聞いているJohn Lennonや,落合恵子さんのセイヤングの影響もあるかも知れませんね。),最近益々その傾向に拍車がかかっているように感じていたところ,思いがけず,女性の権利に関する大学の講義まで受け持つことになったという次第です。
もっとも,(ロースクールでの実務倒産法の講義も同じですが,)通常の弁護士の業務を続けながらの毎週の講義では準備のために多くの時間をとることはなかなかできません。 まして,新しく教材や資料を作る余裕までは到底ありません。 仕方がありませんから,これまで自分自身が扱ってきた事件やその顛末を中心に,合わせて,法律の一般的な知識をお話しするようにしています。 また,事件を処理する中で作ってきた書面などを毎週古い記録の中から引っ張り出しきて,事件の関係者など個人を特定できるような部分には黒塗りをした上で,そのまま教材として利用しています。 授業の出席の確認のためには,毎週レスポンスシートという紙片に名前を書いて提出してもらっているのですが,合わせて,授業の感想などについても,書いてもらうように毎回お願いしていますので,100名程の受講生のだいたい半分ぐらいの人が,その週に取り上げた事件について,自分なりの感性で,印象や気付いたことなどを書いてくれています。 それらを読ませてもらうことで,その昔自分のやった事件について,適切な処理をしていたのかどうか,多くの女性に批判的に検討してもらっているように感じているのですが,同時に,ぼくが伝えたかったことが講義の中できちっと届いているのか毎回確認させてもらっています。 過去に自分がやってきた事件の処理を振り返ると,何か今頃になって当時のそれなり苦労が報われたような気がすることもあって,弁護士としては,決して悪くない気分なのですが,何しろ,講義の内容は,毎回婚約が破棄されたり,結婚しても暴力を振るわれたり,果ては嬰児殺などの刑事事件を扱ったりと,率直に言って,不幸な話ばかりですので,まだ,すべてが未来に向かって開かれているような年齢の女性達に向かって,結婚することや,子供を生むことについて消極的な印象を持たれてしまわないか,そのことをだけを畏れています。 何しろ,ぼくが「女性と法」という授業の中で本当に伝えたいことは,その正反対のことなのですから,…。