司法修習生の模擬裁判の指導を担当して

菊池 博愛 (弁護士)

 昨年10月に1週間ほど司法修習生の模擬裁判の指導を担当しました。模擬裁判は司法修習の中の選択制の研修プログラムの一つで希望者のみが参加するものでしたが、全部で9名の参加希望者がありました。修習生はそれぞれ裁判官チーム、検察官チーム、弁護人チームに3名ずつに分かれ、私はI弁護士と二人で弁護人チームの指導を担当することになりました(裁判官チームは現職の裁判官、検察官チームは現職の検察官が指導を担当しました。)。

 模擬裁判のプログラムを始めるにあたり、プログラム全体のマネージメントを行っている裁判官から「勝ち負けにこだわらずに刑事裁判の手続を学ぶことに重きを置いてください。」というお話があったのですが、私とI弁護士は始まった直後から勝ち負けにこだわる方針でやることにしました。

 使用する事件記録は被告人・弁護人にとって極めて不利な内容でしたが、現実の世界では被告人・弁護人に極めて不利な状況であることは日常茶飯事ですのでそんなことにはめげてもいられません。私たち指導弁護士と修習生は与えられた材料の中で毎晩遅くまで議論を重ね、事前準備を進めました。資料で出てきている証拠を見ると被告人の犯行である疑いは濃いが、第三者がやったと見ることもできないわけではないというもので、弁護人チームは検察官が主張する証拠の評価とは異なる証拠の見方もあるということを本番では訴えました。

 結果として弁護人の主張は裁判官役の修習生には受け入れられませんでしたが、最後まで妥協せずにしっかり準備できたことは良かったと思います。私も指導とは言いながらも、途中からは入れ込んでしまい、判決の時にこちらの主張が通らなかったとわかるととても悔しい思いになりました。

 指導役の裁判官、検察官もそれぞれ自分たちが担当した修習生に親心のようなものが生じているようで、講評の際に私が裁判官役の修習生に訴訟指揮に法的な誤りがあったことを指摘したところ、裁判官からすかさず修習生をかばう発言がなされたのが印象的でした。

 指導を通して若い修習生から逆に刺激を受けることも多々ありましたので、今後の仕事に活かしていきたいと思っています。