台湾の司法事情
高柳 馨 (弁護士)
今年は、2月28日から3月4日まで、日本弁護士政治連盟神奈川支部の一員として、台湾に行き、裁判所、検察庁、弁護士会の視察をしてきました。 ご承知のとおり、台湾は、1945年まで約50年間にわたり日本に統治されており、日本の司法が行われていました。その後、国民党の独裁体制を経て現在に至りますが、現在の司法はといえば、裁判所、検察庁とも、日本を上回っていると強く感じました。 まず、裁判官数ですが、私の訪問した台北地方法院(これは日本の地方裁判所にあたります)では、管轄人口は台北市の7区と台北県の合計192万名、裁判官数160名とのことでした。私が仕事をしている川崎市は、全市が横浜地方(家庭)裁判所川崎支部及び川崎簡易裁判所の管轄になっており、管轄人口135万人、裁判官数は地裁支部12名、簡裁判事3名 写真 1(裁判所の法廷) の合計15名になっています。
比較をするまでもありませんが、台北は、裁判官一人あたり管轄人口1万2千名、川崎では簡裁判事まで含めても裁判官一人あたりの管轄人口は9万名であり、人口比で台北は川崎の7.5倍の裁判官数になります。 また、台北地方法院の建物も立派でありその法廷数は実に39(川崎の 写真 2(司法サービスセンター) 裁判所は簡裁も含めて法廷数9)、その法廷は写真1のとおりITが整備されており、また、台北地方法院の1階には市民向けのかなり広いサービスセンターが置かれており(写真2)、活発に市民相談が行われていました。 日本では、川崎の裁判所はもちろん、他の裁判所でも、このような市民向けのサービスセンターが置かれているところは1カ所もありません。
次に、台北地方法院に対応する台北地方法院検察署は検察官数125名、他方、私の地元川崎では検察官は14名(検事7名、副検事7名)ですので、裁判官と同様、検察官の数も、はるかに充実しています。 管轄人口で比較しますと、台北では検察官一人あたり15,360名、川崎では96,430名、人口比では台北は、川崎の6.3倍の検察官数になります。 また、ここも施設は立派であり、取調室は写真3のとおり法廷を思わせる構造になっており、全ての取調べをビデオ撮影しており、弁護人の取調べ 写真3 検察庁取調室室 立合権も認められており、取調室には弁護人の席も用意されていました。 日本では、取調べは未だに密室で行われており、取調べの状況はビデオ撮影はおろか録音すら行われておりません。もちろん、弁護人の立会権も認められません。
日本は、戦後、世界有数の高度成長を遂げ、その経済力はアメリカに次いで世界第2位と言われて久しいのですが、しかし、司法を支える裁判所、検察庁の状況は、その設備や人員の数、そして市民に対する司法サービスの点において、中国(上海)や台湾(台北)にも追い越されてしまったとの感想を強く持ちました。 司法改革により、弁護士の数は弁護士会で吸収不可能な(新人弁護士の就職先の事務所が見つからない)ほど激増しておりますが、裁判官、検察官の数は微増にとどまっており、その施設も貧弱なまま放置されております。 人口135万人で現在も毎年人口が増加している川崎市です(市内に事務所のある弁護士数も1、2年のうちに100名を突破すると思われます)が、司法改革の大目玉である裁判員裁判は行われません。裁判員裁判に対応するだけの裁判所施設や人員が不足していることがその理由と思われますが、全国の政令指定都市で裁判員裁判をやらないのは川崎市だけです。裁判所、検察庁の人員と施設の大幅拡充を求めたいと思います。