上海、杭州の裁判所を訪問して

高柳 馨 (代表弁護士)

 中国視察団の一人として、まず、最初に訪問したのは杭州市西湖区の第1審裁判所である西湖区人民法院でした。 ここは、管轄人口60万人に対し、裁判官46名、裁判所職員101名という陣容です。 裁判所建物は10階建、15、000平方メートルであり(写真1)、余りの巨大さに、私のデジカメでは全容をとらえきれないほどでした。

 法廷数は30、法廷には最新のIT関連設備や防犯カメラまで備えられております。 法廷にも通常法廷(写真2)と大法廷があり、大法廷(写真3)は大きな劇場を思わせるものでした。

 次に訪れた上海市には、第1審裁判所である基層人民法院が19、その上の中級人民法院が2、更に上級の高級人民法院が1つあります。 私達が訪問したのは、上海市第2中級人民法院であり、その下には10の基層人民法院が置かれており、管轄人口は800万人とのことでした。 上海市第2中級人民法院も大変に立派な建物であり、法廷では裁判官にスポットライトがあたり、裁判官席にはパソコンが設置され、法廷の左右にはパソコンの中身や証拠書類などを映し出す画面も設置されておりました(写真4)。

 日本にはこのような法廷はありません。 また、その大会議室は1000人以上を収容できる規模であり(写真5)、管内の裁判官を集めて会議をすることができるとのことでした。管轄の基層人民法院の裁判官数は1箇所あたり平均約100名、上海市第2中級人民法院の裁判官数は約270名とのことでした。 上海市には第1中級人民法院もあり、こちらは第2より規模が大きいとのことでした。

 翻って、私が仕事をしている川崎市は、全市が横浜地方(家庭)裁判所川崎支部及び川崎簡易裁判所の管轄になっており、管轄人口134万人、裁判所は地方(家庭)裁判所と簡易裁判所の合同庁舎がただ一つ、法廷数は全部で9(審判廷も含む)、裁判官は15名(うち簡易裁判所判事3名)です。

 単純な比較は困難ですが、裁判官1人あたりの人口を出してみますと、わが川崎市では、134万人÷15名=89、333人、上海市では、基層人民法院19で裁判官1、900名、中級人民法院2で600名(合計2,500名)、人口は1700万人ですので、1、700万人÷2,500名=6,800人であり、上海市は、川崎市と比べて人口比で13倍以上の裁判官数になります。 この陣容で集中審理をしておりますので、裁判も速く、民事事件は1人制では3か月、3人制では6か月で判決が出されているとのことでした。 裁判所の物的設備と裁判官数の充実ぶりは見事というほかなく、日本は、欧米はもちろん、中国に比べても、まだまだ司法後進国であるとの感を深くしました。 日弁連では、裁判官数を現在の2倍以上にとの要望を出しておりますが、10倍以上に充実したとしてもまだ中国に追いつかない実態があることを声を大にして主張していきたいと思います。