アメリカIT事情
本田 正男 (弁護士)
今回は,今年(平成17年)11月に金沢で開催された日弁連の弁護士業務改革シンポジウムと,そのための準備として今年7月に行った米国調査報告のことをご報告します。
今年の金沢のシンポジウムは,3つの分科会に分れ開催されましたが,私の参加した第3分科会では,「ここまで来た司法IT化の波 - e裁判所構想とロースクールのIT教育 その現状と展望」と題して,司法領域におけるIT関連技術の導入状況と今後の展開についてパネルディスカッション等検討を行いました。
この司法領域におけるIT関連技術の導入については,ご案内のように米国司法における実践が日本の先を行くものとして参照されなければなりませんが,そのための最良の方法は,現地に足を運んで実際に稼働しているシステムを観たり,触れたりすることです。 そこで,日弁連では調査団を組織し,シンポジウムに先立ち今年7月に大がかりな米国調査を行いました。 そして,今回の調査には,早野貴文弁護士他が主導する「司法制度改革と先端テクノロジィ」研究会(http://www.legaltech.jp/)の方々の協力も得て,同研究会に所属する研究者,法曹関係者,各種関連ベンダの有志の方々にもご参加いただき,合計15名の調査団員が,4つのグループに分れ,全米16州,24都市にわたって,連邦裁判所,州裁判所,弁護士会,ローファーム,公設弁護人事務所,ITベンダ,リーガルエイド,ロースクールなど司法に関わる各種機関の包括的な調査を実施しました(私自身は第1グループに同行し,1週間ほどワシントンDCを中心とした東海岸地域の調査を行いました。)。
百聞は一見に如かずとは正にそのとおりで,ときに文明開化の時代に西欧に留学した日本人の感覚はこんなものではなかったかと思うような気分になることがありました(日弁連の冠の威力はなかなかのもので,何処に行っても歓待を受け,個人としての弁護士には到底見聞きすることのできないシステムの中核に触れることができました)。 調査の詳細は,上記のシンポジウムの報告書としてまとめましたし,この短い紙面の中でご紹介しきれるものではありませんが,何よりも心を動かされたのは,IT関連技術を導入することが,司法の領域においても,これを利用する市民の方々の利便性に貢献すると実感できたことでした。 たとえば,下の画面は,メリーランドのリーガルエイドのホームページですが(http://www.peoples-law.info/Home/PublicWeb),ここでは普段法律の情報には馴染みのない一般市民の方々に様々な言語で,色々なトラブル事案での法律的な対処法を紹介しています。 これこそ市民のための司法に他ならないと思いました。 私は,今回の調査でみたいくつものIT関連技術に子供の頃TVの箱の中でみた鉄腕アトムを思い出しました。 そこでは,科学が人間の幸福に奉仕するという考え方が基本になっていましたし,科学が進歩することで,人はもっと幸福になると単純に考えられていました。 ここ暫く,テクノロジのもたらすマイナス面ばかりに目がいっていたのかも知れません。今回の米国調査では,ずいぶん長い間忘れていた当然のことを思い出すことができました。