シンガポールの最高裁判所調査訪問

 

本田 正男 (弁護士)

 今回は,今年(平成16年)4月に日弁連コンピュータ委員会の委員として参加させていただいたシンガポールの最高裁判所への調査訪問のお話しをさせていただきます。

 コンピュータ委員会が主導していることからご推察頂けるかも知れませんが,今回の訪問は,シンガポールの最高裁判所が推し進めている裁判関係文書の電子化について調査検討することを目的にしています。

 

 シンガポールの最高裁判所のホームページ(http://info.efs.com.sg/default.htm)をご覧いただければお分かり頂けますように,シンガポールでは,裁判所に蓄積される情報について,現在電子ファイリングシステム(Electric Filing System)と呼ばれる総合的な電子情報管理制度が構築されています。 たとえば,民事事件の場合,シンガポールでは,訴訟の当事者から裁判所に紙の文書が提出されることはなく,弁護士は,スマートカードと呼ばれる電子認証局の発行するカードを利用して電子的に自らの権限についての証明を受けた上で,自身の作成した電子ファイルを電子データのまま裁判所に送信するのです(判子の押してある紙を裁判所の窓口に持って行っても一切受け付けてもらえません)。

 現在日本でも,政府のすすめる「eジャパン計画」の下,行政機関の保有する多くの情報が電子化され,インターネットを通じて公開されたり,また,オンライン手続により各種の行政サービスを受けられるようになってきましたが,その風にあおられるようにして,日本の最高裁判所も重たい腰を上げ,これまで立ち後れていた日本の司法分野のIT化を推し進める方向で,裁判手続の電子化が準備されつつあります。

 しかしながら,新しい制度を導入する際には,言うまでもなく,制度の改正がもたらすプラスの効果だけでなく,マイナスの影響を充分に検討した上で,総合的で慎重な制度設計が行われなければなりません。 特に,制度の利用者である市民やその代理人である弁護士にとって,従来以上に経済的で利便性の感じられるもの,安全なものにならなければならないはずです。 ここでは紙面の都合上具体的な内容に立ち入って検討結果を申し述べる余裕がありませんが,56億円という莫大な資金を投じ,裁判所に蓄積される情報について,世界に先駆けて電子的な管理制度を立上げ,その徹底化をすすめるシンガポールの制度を運営にあたる関係者の生の声を直接聞きながら具体的かつ批判的に検討できたことは大変に有意義なことでした。 今回シンガポールを訪問した6名の日弁連の委員は,それぞれが,今回の訪問の経験や成果を日本の司法のあるべきIT化に向けて活かしてゆくことになろうと思います。