熊との共生~法を生きたものとするために~

弁護士 村井 健太郎

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
 みなさまは、昨年の夏休みはどこかに旅行に行かれましたでしょうか? 私は、北海道の知床に旅行に行きました。
 知床は、平成17年7月17日に、世界自然遺産に登録されました。登録に際しては、流氷がもたらす豊かな海洋生態系と原始性の高い陸息生態系の相互関係に特徴があること等が評価されたようです(環境省のwebサイトから引用)。

 私は、知床五湖の散策ツアーに参加しました。ツアーのガイドさんから事前に散策に当たって注意事項を説明されるのですが、その中で「熊と遭遇しても走って逃げたりしない。刺激してはいけない。ゆっくり遠ざかること」ということを言われました。
 ガイドさん曰く、「知床の熊は普段温厚であり、人を積極的に襲ったりはしない」とのことでした。
 当時、ちょうど知床の羅臼岳で下山途中の男性がヒグマに襲われて死亡した事故が発生したばかりであり、私としては、内心非常に「ビビッて」いました。結局、散策中に熊に遭遇することはなかったのですが、ガイドさんは、「先日発生した羅臼岳の死亡事故は、ニュースでは熊が悪者扱いされているが、私は、人間側が悪かったと思っている。
 そもそも熊が元々住んでいる地域に人間が勝手に入っていっているのだから、熊と遭遇しないように鈴を携帯したり、万一熊と遭遇した際にも熊を刺激しないように人間側が行動すべきだった」と仰っていたことが印象的でした。

 さて最近、知床以外でも熊が人間を襲う被害が多発しています。このような事態を受け、国は市街地に侵入した熊を予防的かつ迅速に駆除するために、「緊急銃猟制度」を新たに設けました。これは、4つの要件が満たされた場合に、市町村長が、市町村職員に指示または職員以外の者へ委託し、対象の熊等を、銃器により捕獲等をすることを可能にする制度です。この制度に対しては、4つの要件のうち、「住民や第三者に銃猟による危害を及ぼすおそれがないこと」という要件を満たすことの難しさが指摘されております。
 この要件を満たすためには、結局ハンターは、身を危険に晒してでも熊に接近して、銃猟をせざるを得ず、果たしてハンター側の生命や身体の安全の確保が考慮されているのか疑問が投げかけられております。

 2018年8月には、北海道砂川市でヒグマをライフル銃で撃った猟友会の男性が、建物に向けて発砲をしたということを理由に銃の所持許可を取り消される事件がありました。
 銃の所持の許可の回復を求めた裁判では、第一審の札幌地裁では、男性側が勝訴しましたが、第二審の札幌高裁では、男性側が逆転敗訴し、現在、最高裁判所へ上告中です。
 以上の一連の熊による被害、それへの対処方法のあり方を巡る議論を見ますと、一朝一夕に答えが出るものではないと思われます。しかし、法とは、ルールとは、杓子定規に適用するものではないと私は考えます。
 実際の「現場」の声を聞かずに、「机上で」作られたルールに果たしてどれほどの意味があるのでしょうか? 法を「生きた」ものとするために、現実の社会に生きる人々の「生の声」を聞くことの大切さを法律家として痛感しております。

 それでは、本年も皆様にとって良い年であることを願っております。