若松弁護士の「勾留理由開示請求をしたら即時釈放された事案」が刑弁FLASH第67号(2012.6.29刊行)に掲載されました。
以下掲載文を紹介します。
第1 事案の概要
本件は、男性が、深夜公道で陰部を露出して自転車にまたがっていたところを警察官に現認され、現行犯逮捕された事案です。男性に前科前歴はなく、住居が定まっている上に、定職にも就いていました。そのため、男性は、初めての逮捕に動揺しつつも、注意を受けてすぐに家に帰れるだろうと考えていました。
しかし、身柄拘束3日目に勾留決定が出されたため、男性は、当番弁護士の派遣を要請し、私が、同日接見に行き、受任して弁護人となりました。
第2 勾留決定に対する準抗告申立
本件は、公然わいせつ罪の現行犯逮捕事件で、隠滅する証拠はありませんし、男性は事実を認めていました。また、男性に前科前歴がないこと、定職があり妻と幼い子どもがいること、通行人が多くはない時間帯での犯行であったことなどから、私は、男性が処分保留で釈放されるか、罰金刑が言い渡される事案ではないかと考えました。
そこで、私は、男性に対し、勾留決定に対して準抗告の申立ができること(ただし、認められる可能性は高くはない)、おそらく罰金刑が言い渡されるので何もしなくても勾留満期日(勾留10日目)には釈放される可能性が高いことを伝えました。その上で、私は、男性に対し、それでも勾留決定を争うか聞いたところ、初めての身柄拘束で留置場の中での生活が怖いため、1日でも早く出たい、留置されている人達も怖くてたまらない、ということだったので、私は、勾留決定に対する準抗告の申立をすることに決めました。
私は、男性の妻と面会し、上申書と身柄引受書を作成し、身柄拘束5日目(拘留3日目)の午前9時30分頃、裁判所に準抗告の申立をしました。
第3 準抗告の申立に対する裁判所の判断
裁判所は、その日のうちに棄却の決定を出してきたのですが、その内容があまりにもひどく、納得しがたいものでした。
裁判所は、「被疑者の適正な終局処分の判断をするためには、犯行に至る経緯・動機や被疑者の生活状況等の解明が必要と認められる。そうすると、これらの諸点が十分解明されていない現段階においては、被疑者が関係者に働き掛けるなどして、本件の罪体や重要な情状事実について、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由が認められる。また、被疑者の身上や生活状況に加えて、本件が法定刑として懲役刑も定められている犯罪であることなどに照らすと、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由も認められる。」と判断し、準抗告を棄却しました。
単独で陰部を露出するという公然わいせつを行っただけであるにもかかわらず、「関係者に働き掛け」て罪証を隠滅するおそれがあると述べ、かつ「法定刑として懲役刑が定められている」から逃亡のおそれがあるというのです。
私は、準抗告の申立が棄却されることについては、ある程度諦めに似た気持ちをもっていましたが、裁判所の決定理由があまりにも理不尽であったため、この決定を放置しておくことができないと考えました。
第4 勾留理由開示請求
準抗告の棄却決定に対しては、特別抗告をするという方法もありましたが、私は、書面で申立をしたところで、また棄却されるだけだと考え、別の方法を検討しました。
勾留理由開示請求をしてはどうかという意見も聞いたのですが、私には意味があるとは思えなかったので、どうしたものかと悩んでいたところ、Defenseの「勾留理由開示請求したら即釈放された例」というコラムを読み、勇気をもらいました(改訂版27頁)。
そこで、私は、身柄拘束10日目(勾留8日目)に男性と接見し、勾留理由開示請求の説明をしました。私が、男性に、「公開の法廷で公然わいせつという恥ずかしいことを明らかにされてしまうけれど良いか」「必ず釈放が早まるものでなく、早まっても1日だがよいか」と尋ねると、1日でも早く出られる可能性があるのであればやって欲しい、ということだったので、勾留理由開示請求をすることに決めました。
私は、身柄拘束11日目(勾留9日目)の朝、裁判所に勾留理由開示請求書と求釈明書を提出しました。そうしたところ、約30分後に検察官から「勾留理由開示請求との関係で本日釈放します。」とい連絡が入りました。男性は、その日の午前中に処分保留で釈放され、私は、裁判所からの要求に従って、勾留理由開示請求を取り下げました。
第5 その後、雑感
男性の勤務先の上司は、被疑事実を知った上でしばらく黙ってくれていたのですが、結局会社の知るところとなり、男性は、会社を辞めさせられてしまいました。今回の事案は、逮捕されたとしても勾留されるべきではない事案だと思います。男性が勾留されていなければ、職業を失うことにもならなかったと思います。勾留することによって、その人の人生、社会的地位を奪ってしまうと言うことを検察官、及び裁判所にはもっと深く考えて欲しいです。